
2026年盛夏。西新宿の京王プラザホテル上階から夜景を見る機会に恵まれた。まずは新宿から東を眺め、視界に飛び込んできたスカイツリーに思わず声をあげた。次に西へと視線を移し、埼玉方面へのつながりを一つ一つ指差しながら確認した。高層階から眺めると東京の夜景は途切れることなく、そのまま埼玉の街明かりへと溶け込んでいくのがよくわかる。かつて、夏目漱石が「東京はまちの灯りが途切れない」と書いていたことをなんとなく思い出した。
1990年に公開された映画『東京上空いらっしゃいませ』の主人公はデビューしたばかりの牧瀬里穂さん演じるキャンペーンガールのユウ。ユウは埼玉県川越市出身。映画公開当時の西新宿のビル群は、現在の洗練された大都会の景色とは大きく異なり、「バブルの熱気」と「昭和の泥臭さ」とが混ざり合った不思議なものだった。映画の中で、ユウが「上空のきれいな世界」から「ゴツゴツした地上」へと降りていく特有の感覚は、当時の西新宿の凸凹した景色そのもの。「見上げれば未来の摩天楼、見下ろせば昭和の古い路地裏」という、強烈な格差と混沌が地続きになっていたのがこの頃の西新宿だった。
現在の京王プラザホテルから見られる景色を1990年代と比較する場合、最もわかりやすい建物が目の前の「東京都庁」だ。現在ではまばゆいプロジェクションマッピングが大盛況である。1990年にこの光景を予想した人がいるだろうか。あの頃は人の気配もなく、ライトアップもされていなかった。ただ開庁を待つ”新宿新都庁舎”の静かなる威圧感と神聖さは、物議を醸しつつも、この建築が持つ独自の存在感として広く社会に認知されていった。
都政のシンボル・都庁は何人もの都知事を生み出していった。なかでも石原慎太郎知事は鮮やかだった。そのあと数名ごたついた結果、小池百合子氏が初の女性知事に。横文字を多用すること、イメージ戦略は毀誉褒貶をもたれることにもなったが、最近では「高市早苗首相とくらべると小池百合子氏は一枚上」という評価につながっている。高市氏ののらりくらり、独断専行型の政治スタイルが支持離れを招いているからか。
1991年に開庁した東京都庁が長い間、新宿の空を見てきたのは事実である。しかし、京王プラザホテルが「日本初の超高層ホテル」として西新宿に誕生したのは1971年。今年は創業55年の節目。東京都庁よりも20年も昔から、新宿の空をずっと見つめ続けてきたのが京王プラザホテルなのだ。並び立つビル群が刻んできた歴史こそが、この街の摩天楼の今を輝かせている。
文責 葉桜こい